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第6章 環境保健

第1節 水俣病対策

1 「水俣病」とは
 
昭和31年5月に,熊本県水俣市で患者が確認されたのが水俣病の公式発見とされています。
 水俣病は,水俣湾産の魚介類を長期かつ大量に摂取したことによって起こった,四肢末梢の感覚障害,運動失調,視野狭窄,難聴を主要症状とする中毒性中枢神経系疾患です。 原因物質は,メチル水銀化合物で,新日本窒素水俣工場のアセトアルデヒド酢酸設備内で生成されたメチル水銀化合物が工場廃水に含まれて排出され,水俣湾内の魚介類を汚染し,その体内で濃縮されたメチル水銀化合物を保有する魚介類を地域住民が摂取することによって生じたものであるとされています。

2 水俣病対策の概要
 水俣病は,昭和31年の公式発表から今日まで深刻かつ重要な問題であり,本県ではこの水俣病対策を県政の重要課題としてとらえ,被害者の迅速な救済を図るため,検診・審査体制の拡充強化,認定申請者に対する医療救済等の対策を進めるととも
 に,水俣病としては認定されていないものの,水俣病にもみられる一定の症状を有する者に対する医療費等の支給や水俣病発
 生地域の住民に対する健康診査等を内容とする水俣病総合対策事業を実施してきています。
 水俣病問題については,平成7年12月15日に閣議了解された最終解決策に基づき,患者団体と原因企業との間で協定が締結されるとともに,訴訟取下げにより大多数の裁判が終結したため,社会的紛争は少なくなりました。
 このように,水俣病問題は解決に向けて前進してきていますので,引き続き認定業務の促進を図るとともに,水俣病総合対策事業の適切かつ円滑な運用に努めることとしています。

3 水俣病認定申請・審査・処分の状況
 公害による健康被害者の迅速かつ公平な保護を図るため,「公害健康被害の補償等に関する法律」に基づき,水俣病認定申請者に対する検診,疫学調査等を実施した後,この結果をもとに「水俣病であるか否か」について鹿児島県公害健康被害認定審査会に諮問し,審査会の答申を経て水俣病の認定等の処分を行っています。
 また,「水俣病の認定業務の促進に関する臨時措置法」に基づき,環境庁長官に対して認定申請を行っている者については,国の認定審査会の諮問・答申を経て国で処分がなされています。

表6−1 認定申請・処分等の状況【平成11年3月31日現在】

表6−2 認定審査会の審査状況

4 不服申立
 認定申請に係る知事の処分に不服のある者は,「公害健康被害の補償等に関する法律」に基づき,その処分を行った知事に対して異議申立をすることができ,さらに,異議申立によって知事が行った処分に対して不服がある者は,公害健康被害補償不服審査会に対して審査請求をすることができることとなっています。

表6−3 不服申立状況【平成10年度】

5 訴訟
 これまでの水俣病に関する訴訟の状況は,資料編11−(5)(@からK)のとおりとなっています。

(1) 継続中の訴訟
 平成10年度末現在における係属中の訴訟は,国,熊本県,加害企業等に対して提起された事件で,@水俣病にり患したことによる被害に対する損害賠償訴訟,A平成7年の与党三党合意に関係者が合意したことを受けて患者団体に支給された団体加算金に関連して提起された損害賠償請求訴訟及びB認定業務不作為違法に対する損害賠償請求訴訟の3件です。 なお,本県への水俣病認定申請者等の関係者が含まれているのは@及びAです。

(2) 既に終結した訴訟
 水俣病にり患したことによる被害に対するCからJの損害賠償請求訴訟については,平成7年の水俣病問題の最終解決策との関連で,それぞれ原告側から取り下げがなされました。
 また,本県知事が行った水俣病認定申請棄却処分の取り消しを求めるKの抗告訴訟については,平成9年に原告勝訴の判決がなされました。

6 補償
 認定審査会において水俣病として認定された場合は,「公害健康被害の補償等に関する法律」に基づく補償又は「患者団体とチッソ(株)との補償協定」に基づく補償のいずれかの補償を受けることができることとなっています。

 《患者団体とチッソ(株)との補償交渉の経過》
 患者団体とチッソ(株)との最初の補償交渉は,熊本県知事等による「水俣病紛争調停委員会」の斡旋により行われ,昭和34年12月に当時の患者全員との間で見舞金契約が成立しました。
 次いで,昭和43年9月,政府の水俣病の統一見解の発表によりチッソ(株)の工場廃水に起因することが明確になったため第2回目の交渉が行われ,水俣病補償処理委員会の斡旋により,一般に和解派と呼ばれる一部の患者との契約が昭和45年5月に成立しましたが,この斡旋の「確認書」をめぐり斡旋に応じない一部の患者は,昭和44年6月熊本地裁に訴えを起こし(第1次訴訟派),ここに当時患者が組織していた水俣病患者家庭互助会は2派に分かれました。
 さらに,昭和48年3月には第1次訴訟の判決が熊本地裁であり,また,同年4月には公害紛争処理法に基づく水俣病補償調停委員会に調停依頼の申請を行っている一部の者との調停が成立し,それぞれ新たな補償額が決定されました。
 これらの新たな状況の変化に伴い,全患者との第3回目の補償交渉が開始され,環境庁長官等の斡旋による昭和48年12月25日の交渉妥結を最後に,補償協定書の調印が昭和48年7月9日付けで患者各派代表者によってなされました。

7 公害保健福祉事業
 「公害健康被害の補償等に関する法律」が昭和49年9月1日から施行されたことに伴い,同法に基づく水俣病認定者の保健福祉事業を実施してきています。
 この事業は,環境庁長官の承認を受けて県が事業を実施することとなっていますが,事業費用のうち4分の3を公害健康被害補償予防協会(国4分の1,汚染原因者4分の2)が負担することとなっています。
 本県では,出水保健所の保健婦による在宅患者の家庭療養指導を実施しています。

8 公害医療研究事業

(1) 水俣病要観察者等治療研究事業
 水俣病について医療の研究を行うとともに医療救済を図るため,水俣病認定申請者のうち経過観察を要する者等に対して,その者が認定申請に係る疾病の治療等に要した経費の一部を助成することとしています。

 ア 助成の内容
 (ア) 研究治療費
 医療保険各法又は老人保健法(昭和57年法律第80号)に基づく保険医療機関等(以下「医療機関」という。)において,認定申請に係る疾病について療養の給付を受けた場合(歯科診療及び第三者の行為によって生じた診療を除く。)に,当該法令の規定により自ら負担すべきこととなる費用の額(ただし,入院食事料に係る標準負担額,訪問看護療養費及び老人訪問看護療養に係る基本料金を含む。 療養の給付に係る他の助成制度により支給される助成金がある場合には,当該制度により支給される金額を除く。)に相当する額を支給します。

 (イ) はり・きゅう・マッサージ施術療養費
 知事から免許を与えられたはり師,きゅう師又はあん摩マッサージ指圧師のもとで施術を受けた場合に,月5回を限度として表6−4の区分により定めた額と対象者が現に支払った額と比較して,いずれか少ない方の額を支給します。

表6−4 はり・きゅう・マッサージ施術療養費

 (ウ) 研究治療手当
 答申保留中の者が医療機関において療養の給付を受けた場合,又ははり・きゅう・マッサージの施術を受けた場合は,その実日数及び再検診を受けた実日数及び再検診を受けた実日数に500円を乗じて得た金額を支給します。
 なお,出水市桂島,東町獅子島等の離島に居住している対象者が島外の医療機関へ通院して治療を受けた場合は,実日数に500円を乗じて得た額を加算しています。

 (エ) 介添手当
 答申保留中の者で,身体上の障害等により日常生活に介添えを要する状態にある者が介添えを受けた場合は,表6−5の区分により支給します。
 水俣病療養観察者等療養研究事業の平成10年度の給付実績は表6−6のとおりとなっています。

表6−5 介添手当

表6−6 給付実績   (単位:円)

(2) 水俣病調査研究事業
 水俣病の治療法等の研究を行い,今後の地域住民の保健対策に資するため,鹿児島大学医学部に臨床医学的,病理学的及び疫学的研究を委託することとしています。
 平成10年度における研究委託内容は次のとおりとなっています。

  ア 水俣病の統計学的モデルに基づく計量診断法の開発についての研究
  イ 水俣病に関する病理学の文献の収集とその分析についての研究
  ウ 水俣病における心因性視野異常の変動についての研究
  エ 水俣病における噴霧式基準臭覚検査の有用性についての研究
  オ 八代海沿岸の水俣病患者における悪性腫瘍のリスクの研究

9 水俣病総合対策事業

(1) 水俣病総合対策医療事業
 水俣病とは認定されていないものの,水俣病にもみられる四肢末梢優位の感覚障害を有する者の健康上の問題の軽減,解消を図る目的で,治療に要した経費の一部を助成するとともに,治療の程度に応じて療養手当を支給する水俣病総合対策医療事業を平成4年6月から実施しました。 この事業の適用を受けるための申請は,平成7年3月31日に締め切られましたが,その後,水俣病問題の解決を図るための最終解決策が平成7年12月15日に閣議了解され,これに基づく水俣病総合対策医療事業の申請受付が平成8年1月22日から同年7月1日まで再開されました。
 なお,この申請に対する判定は,平成9年2月25日に開催した判定検討会をもって全て終了しました。

 ア 申請・判定等の状況
 受付再開後の医療事業の状況は,表6−7及び表6−8のとおりとなっています。

表6−7 申請・判定等の状況

表6−8 対象者の状況

 イ 事業内容
 水俣病にもみられる四肢末梢優位の感覚障害を有すると認められる者(医療手帳対象者)及び水俣病にもみられる神経症状を有すると認められる者(保健手帳対象者)に対して療養費等を支給することとしています。
 (ア) 医療手帳対象者
  @ 療養費
   医療保険各法又は老人保健法(昭和57年法律第80号)に基づく保険医療機関等(以下「医療機関」という。)において,認定申請に係る疾病について療養の給付を受けた場合(歯科診療及び第三者の行為によって生じた診療を除く。)に当該法令の規定により自ら負担すべきこととなる費用の額(ただし,入院食事療養に係る標準負担額,訪問看護療養費及び老人訪問看護療養に係る基本利用料を含む。療養の給付に係る他の助成制度により支給される助成金がある場合には,当該制度により支給される金額を除く。)に相当する額を支給します。
  A はり・きゅう施術費
  知事から免許を与えられたはり師又はきゅう師のもとで施術を受けた場合に,月5回を限度として表6−9の区分により定めた額と対象者が現に支払った額と比較して,いずれか少ない方の額を支給します。

表6−9 はり・きゅう施術費

  B 療養手当
  治療に要した程度に応じ,表6−10の区分により支給します。

表6−10 療養手当

 (イ) 保健手帳対象者
 神経症状に関連して,知事から免許を与えられたはり師又はきゅう師のもとで施術を受けた場合及び温泉療養等を行ったときは,はり・きゅう施術費,温泉療養費等を月額7,500円(施術・療養回数は合わせて5回を限度)の範囲内で表6−11の区分に応じて,定められた額と対象者が現に支払った額とを比較していずれか少ない方の額を支給することとしています。

表6−11 はり・きゅう施術費,温泉療養費等

 ウ 給付実績
 平成10年度における水俣病総合対策医療事業の給付実績は表6−12のとおりとなっています。

表6−12 給付実績  (単位:円)

(2) 水俣病総合対策健康管理事業
 水俣病発生地域において,過去に通常のレベルを超えるメチル水銀の曝露を受けた可能性がある者の健康上の問題の軽減・解消を図る目的で健康診査等を実施することとしています。
 本県においては,水俣病の認定者が多い出水市及び東町を対象地域として,市町が従来から行っている老人保健法に基づく健康診査を活用し,問診項目を上乗せして実施しています。
 平成10年度は,出水市の992人,東町の310人の計1,302人が健康診査等を受診しました。

第2節 その他の環境保健対策
1 不知火海沿岸地域住民の毛髪水銀行調査
 
熊本県が実施した水俣湾堆積汚でい処理事業(昭和52年〜平成2年)に対応して,その監視の一環として昭和52年から実施してきている毛髪水銀調査については,平成10年度も関係漁業協同組合員及び関係市町職員を対象に実施しました。検査結果は,表6−13のとおりで,国が定めた「水銀による環境汚染暫定対策要領」による20ppm以上の方はありませんでした。

表6−13 毛髪中の水銀値の調査結果

2 水俣湾堆積汚泥処理事業に係る環境監視
(1) 調査の概要
  熊本県が実施した水俣湾の水銀汚染堆積汚泥処理事業に対応し,事業の実施に伴う濁りの発生及びその拡散による水質,底質及び生物に対する影響を監視するため,昭和48年度から調査を実施しており,平成10年度も引き続き実施しました。
 ア 調査点
 図6−1のとおり,調査点は,水質及び底質調査5点,生物(プランクトン)調査2点です。

図6−1 調査地点図

 イ 調査項目
 水質調査(透明度,T-Hg),生物調査(T-Hg,A-Hg)は年2回実施しました。

(2) 調査結果の概要
ア 水質
 ・総水銀(T-Hg)
  5点,2層,年2回延べ20検体について分析しましたが,すべて環境基準(0.0005mg/L以下)以下を達成していました。
イ 底質
 ・総水銀(T-Hg)
  5点,年1回延べ5検体について分析しましたが,これまでの調査の結果と同レベルでした。
 ・アルキル水銀(A−Hg)
5点,年1回計5検体について分析を行いましたが,いずれも検出限界値(乾重量当り0.01mg/kg)以下でした。
ウ 生物(プランクトン)
 ・総水銀(T-Hg)
  St.5,St.8の調査点付近の表層(水面下1〜1.5m層)で年2回プランクトンネットで水平曳きして生物採取を行い,計4検体について総水銀の分析を実施しました。
  調査結果は0.20〜-0.53mg/kg(乾重量)でした。
 ・アルキル水銀(A-Hg)
  総水銀と同じく4検体について分析を行いましたが,すべて検出限界値以下でした。

表6−14 底質総水銀濃度の推移 (年平均地) (単位:mg/kg)

図 総水銀の分析

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